第4回ベイエリアキャリアセミナー 「シリコンバレーで挑戦する日本人起業家とのトークセッション」

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この記事の所要時間: 723
*こちらの記事は渡辺圭祐さんからの寄稿です。

6月15日 (土) にサンフランシスコのSmartNewsオフィスで、ベイエリアを拠点に活動するNPO団体『Beyond Japan SF』による第4回ベイエリアキャリアセミナー 「シリコンバレーで挑戦する日本人起業家とのトークセッション」を開催しました。

今回のイベントではシリコンバレーで挑戦されている3人の起業家の方に、起業にまつわるエピソード、起業にかける想い、これまでに学んだことをお伺いしました。日本人がシリコンバレーという土地で、言語や文化を越えて起業するとはどういうことなのか?本記事ではトークセッションでの回答をピックアップし、そのエッセンスをまとめてみました。

▼本記事の内容
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[#1] 起業のアイデアとPMFに至るまで
[#2] 起業を志した時期 / シリコンバレーを選んだ理由
[#3] アメリカで起業する方法
[#4] 日本人であることのメリット
[#5] 起業家としての素質
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左から小林清剛さん、内藤聡さん、長谷川浩之さん

登壇された方のプロフィールはこちらです。

小林清剛さん
CEO & Co-Founder of Chomp
1981年生まれ。大学在学中に食料品の輸入会社、2005年に珈琲通販会社を設立。2009年にスマホ広告事業の株式会社ノボットを設立し、国内2位のスマホ広告ネットワークにした後、2011年にKDDIグループに売却。2013年に米国サンフランシスコにてChomp Inc.を設立し、レストランやお店で食べたものを親しい人とシェアできるソーシャルアプリ「Chomp」を展開している。また、TokyoFoundersFundのパートナーとして、米国を中心に30件前後の企業に投資をしている。

長谷川浩之さん
Founder & CEO of Ramen Hero
東京大学経済学部卒業後、東京でオーガニック野菜のオンラインマーケットプレイス事業を創業。2014年に渡米し、IT系に興味のある日本人が短期滞在でき、ノウハウ共有や志を共にできる若者のための宿泊場所Tech HouseをAnyplace創業者の内藤聡氏と運営。2017年に「Ramen Hero」のKickstarterキャンペーンを成功させ、2018年より本格販売開始。2019年3月、ニューヨークに拠点を置く米国のトップシードアクセラレータープログラムAngelPadを日本人起業家として初めて卒業。

内藤聡さん
Co-Founder & CEO of Anyplace
2014年、大学卒業後渡米。IT系に興味のある日本人が短期滞在でき、ノウハウ共有や志を共にできる若者のための宿泊場所Tech HouseをRamen Hero創業者の長谷川 浩之氏と運営。後にAirbnbで当日売れ残った部屋を、低価格で購入できるマーケットプレイスを開発。その後、ピボットし、ホテルの一室を月極定額で賃貸できる「Anyplace」を創業。

起業のアイデアとPMFに至るまで

Q: 様々な事業アイデアがある中で、どのように現在の事業アイデアに至ったのですか?

小林さん: 我々はChompという外食の体験をシェアするアプリを作っています。元々はSnapchatでさとる(内藤さん)やひろくん(長谷川さん)たちと写真のやりとりをしていたんですが、その写真はほとんど外食のものだったので、飯テロをし合っているみたいになっていたんですね。それで、これはすごく面白いなと。

でも、Snapchatはそのために作られたアプリではないので、人によっては嫌がるし、写真も消えて場所もわからなくなるということで、それならそれに特化したアプリを作ったら面白いんじゃないかと。実際に作ってみたらすごく面白くて、現在も続いているという感じですね。

過去にも色んなプロダクトを作って試したのですが、自分が強烈にやりたいものじゃないと続かなくて。Chompももう2年ぐらい試行錯誤しながら続けています。

内藤さん: 僕は自分が欲しいけど、世の中にまだないものという所から始めました。アメリカの引っ越しはWifiを契約したり、家具を買ったり、Utilityを契約したりとすごく辛くて。ホテルを予約するような感覚で賃貸を契約する『Anyplace』というサービスを始めたのが2年ぐらい前です。

それを始める前は様々なプロダクトを作って試して失敗して、ピボットの繰り返しという闇歴史があったんですけど、今ようやく自分が心から信じられるプロダクトが見つかってやっているという感じです。

長谷川さん: 僕は2年ぐらい前から本格的に今の事業を始めました。もともとラーメンが本当に好きで東京で1,000件以上食べ歩いてきたのですが、アメリカは現在ラーメンブームでラーメン屋さんは増えているにも関わらず、個人的に美味しいところがなくて悩んでいたんです。

アメリカで自分の好きなものが全然食べられないという悩みと、マーケット的に伸びているという観点から、出来るだけ大勢の人に美味いラーメンを届けられるサービスをやりたいと考えている時に今の『Ramen Hero』のアイデアを思いつきました。

小林さん: ちなみによくProduct Market Fit (PMF) が大事だと言われるのですが、私はPMFよりもFounder Market Fitという「なぜそのファウンダーがそのプロダクトをやり続けられるのか」という強い理由や原体験の方が大事だと思うので、自分で何かをやりたいという人は自分の中でそれを説明できるようになるのが大事だと思います。

Product Market Fit (PMF) とは顧客の課題を満足させる製品(プロダクト、サービス)を提供し、それが適切な市場に受け入れられている状態のこと。

Q: 今やっているプロダクト・サービスにニーズがあるというのはどのように検証しましたか?

内藤さん: まずは実際にマンスリーで貸し出してくれるホテルが存在するのかを調べる必要があったので、サンフランシスコ市内の全ホテルに問い合わせをしました。すると、いくつかのホテルが月額$1,500くらいなら貸し出しても良いという回答をくれたんです。

なので、次に僕以外に実際にホテルに長期で住みたいという人がいるかを調べるために、月額$8で使える簡易的なウェブサイトにそのホテルの写真や値段を載せて、それをCraiglistというアメリカでは有名な何でも掲示板のようなサイトに載せて実際にお客さんがお金を払ってくれるかを検証しました。

サンフランシスコでは家賃が月に$2,000から$3,000(数十万円)とかなり高額なこともあるせいか、月額$1,500で住めるならぜひ住みたいと3人の方から連絡をもらいました。その時に、僕以外にもこのサービスが欲しい人がいるんだという確信になりました。

Q: これまでに色々なアイデアを試したとおっしゃっていましたが、どのような事をされてきたのですか?

内藤さん: 僕は最初はホテルのAirbnb版、直前予約のAirbnbみたいなものを作っていました。でも、それは本当に頭でっかちの掛け算で、Hotel Tonightがすごく伸びていて、Airbnbというモデルでは在庫が余っているからいけるんじゃないかなと。

実際、自分がそれを欲しいかどうかはわからなかったんですが、人に相談してフィードバックをもらい、最終的には自分で自分を説得していたんですよね。でも、自分が本当に心から欲しいかというところには嘘をつけないので、その部分に正直になることは大事だなと思いました。

長谷川さん: 僕も最初はTechCrunchなどを読んでAIや流行りのワード、トレンドを元に事業を考えていました。そして、海外旅行者向けのチャットコンシェルジュアプリを作り、資金調達も検討していましたが、自分が本当に心からやりたいと思えるものではなかったのでクローズしました。

そういった決断の中で、さとる(内藤さん)やキヨさん(小林さん)と話し、事業選びにおいては自分の確信できることがベストだということ、そして、その事業をやるのにベストな人物は自分だと言い切れるのが大事だと気づいたので、それを今でも心に留めています。

起業を志した時期 / シリコンバレーを選んだ理由

Q: 長谷川さんと内藤さんはいつ頃から起業を志すようになったのですか?

長谷川さん: 僕は大学に入った頃からですね。みんなと違うことをやりたいというのはあったんですが、どうやったら起業できるかわからずモヤモヤしていました。結局就活をして内定ももらったんですが、不安だけどやっぱり起業したいなと思い大学4年生の後半ぐらいから起業の道に進みました。

内藤さん: 僕は家が自営業で父親が社長だったので、次期社長みたいに言われることもあって、社長って簡単になれるんだなと思っていました。

それでありきたりな話なんですが、大学2年生の時にソーシャルネットワークというFacebookの映画が公開されて衝撃を受け、同世代の人たちが自分で会社を作って世界に衝撃を与えているのってかっこいいなと、そこから起業の道に進んだという感じです。

Q: なぜシリコンバレーを選ばれたのですか?

内藤さん: 最初は日本に帰ろうと思っていたんですが、「なぜ起業するのか」とか「何になりたいのか」といったことを考えた時に、FacebookとかTwitterのような世界中で使われるプロダクトを作りたいと思ったんです。

こちらにはそういったプロダクトを作ったマーク・ザッカーバーグやジャック・ドーシーのような人がたくさんいて、彼らのようになりたいと思ったのがシリコンバレーを選んだ理由ですね。

もちろん、日本には孫さんや三木谷さんのような一代で大きな会社を作り上げた創業者がいて、どちらも違ったカッコ良さがあると思っています。

小林さん: 僕は日本で元々モバイル広告の会社をやっていて国内2位の規模だったんですが、1位がGoogleで、全然勝てなくて満足できなかったんです。1位じゃないと嫌だし、世界中に自分たちのプロダクトを使ってもらいたいという気持ちがすごく強かったです。

僕は、起業家の価値は「自分がいる世の中といない世の中の差分」だと思っていて、そうであれば、ここに来て世界中の人たちに使ってもらえるプロダクトを作るのが一番いいことだなと思い、こちらに引っ越してきました。

アメリカで起業する方法

Q: もし自分が今20代前半だとしたら、どのようにアメリカで起業しますか?

内藤さん: まずはこっちに来て6ヶ月とか1年くらい滞在して考えますね。日本とアメリカではマーケットの課題も違うし、課題を見つけるのもそんなに簡単ではないので、やはり長期で滞在して課題を見つけてチャレンジしていくのが大事だと思います。

長谷川さん: 僕も長期で滞在するのが大事だと思います。自分のラーメン宅配の事業も日本だと美味しいラーメン屋さんがあちこちにあるのでうまくいかないんですよね。でも、アメリカだとだだっ広くて近くに美味しいラーメン屋さんがないので勝機があるのかなと思っています。

仮にあったとしても行列ができているとか、子供がいて外食がしづらいといった色々な問題があり、マーケット自体が違うので、何かしら大成する方法はあると思います。なので、やはりある程度長く滞在するのが良いと思いますね。

Q: アメリカで起業するとなるとビザの問題がありますがどのように解決しましたか?

内藤さん: 僕たち(長谷川さんと内藤さん)はまず最初に語学学校に行きました。月$500ぐらいで行ける語学学校があって、少しでもそこに長くいて課題を見つけて、これだと思えるアイデアが見つかったら日本の投資家から資金調達をしました。

資金調達すると、そのお金でE2ビザという投資家ビザが取れるので、それでビザ問題を解決しました。今は4〜5年前よりも環境が良いので、やる気があればお金は集まると思います。

Q: アメリカでサバイブするコツはありますか?

長谷川さん: 家賃をとにかく抑えることですね。何と言っても家賃が一番高いので。僕たちはキヨさん(小林さん)のアドバイスでシェアハウスを始めて、大勢で寝泊まりできるようにして生活費を抑えながらサバイブしていました。2年間ぐらいプライバシーがないシェアルームでしたね。

日本人であることのメリット

Q: ベイエリアで起業する上で日本人であることのメリットはありますか?

小林さん: 最近ベイエリアの人件費が高騰し過ぎていて、開発拠点やカスタマーサポートを別の場所に持つ傾向があり、投資家もそれを推奨しています。日本もその候補地の一つなので、日本人を日本拠点で採用しやすいという観点ではメリットになると思います。

あとはこちらで資金調達する場合、日本の投資家やVCは海外で挑戦する日本人を積極的に応援してくれるので、まずはシード投資を日本から集めて、PMFを達成してグロースステージに入ったらアメリカ・日本の投資家両方から投資を検討するというのが良いのではないかと思います。それができるのは日本人であるメリットの一つかもしれません。

日本人は特殊な国民性があり、日本人同士の助け合いや日本のリソースを使うことに恥ずかしさを感じる人もいるんですが、他の例えば中国系・インド系はそれを上手く活用しているので、日本人起業家の方もそこを上手く活用した方が良いのではないかと思います。

起業家としての素質

Q: アメリカで起業する or スタートアップで働くのに必要な要素は何だと思いますか?

小林さん: こっちで起業する人、働く人はもうすでにこっちにいるんですよね。そういった人は何とかしてこっちに居続ける方法を見つけています。そういう観点では、問題解決能力のある人がスタートアップに向いていると思いますね。

あと、よく「どうすればこちらで起業できますか?」という質問を受けるのですが、その質問をしている時点でその人には問題解決能力が足りていないのかもしれません。

Q: 起業家にとって必要な素質は先天的なものだと思いますか?それとも後天的に身につけられるものだと思いますか?

内藤さん: 目的達成能力や問題解決能力は大事だと思っていて、それらは後天的に身につけられるものだと思います。

僕がキヨさんに社会人経験がないのに起業できるのかと相談した時に話してくれたのが、起業家としてやっていくことと従業員として働くことはそもそも使う筋肉(必要となる素質や能力)が違うということです。サッカーをするのか野球をするのか、それくらい使う筋肉が違うのです。

いくら社会人として成功していても起業家としては別の資質が必要なので、起業家として成長するためには起業して失敗して、そこで筋肉痛を経験して筋肉を鍛えていくしかないと言われたのがしっくりきて、自分も挑戦してたくさん失敗して成長している最中です。

Q: 起業にはリスクが伴うという意見もありますが、どうすればリスクを取って挑戦し続けられるのですか?

長谷川さん: 得られるものと失うもののバランスを考えるということだと思います。自分はすごく大勢の人に使われる事業を作りたいという想いがありますが、一方で事業をすると家族との時間やお金、時には大切な仲間を失うこともあります。

これはキヨさんからいただいたアドバイスですが、リスクをとり続けるためには、自分の中で常に欲しいものが大きくなっている状態、天秤でいうと欲しいものが常に重い状態になっているかを定期的に見直すと良いと思います。このキヨさんからのアドバイスが今でも強く心に残っていて、僕も定期的に見直すようにしています。

小林さん: 人間は年をとるとリスクが取りづらくなると言いますが、これはまさに天秤の話だと思っていて、世間からの評判、安定、家族との時間よりも重くなるものを自分の中で見つけないと前に進めなくなるんです。だから、僕は20代前半で起業する方が楽だと思います。

では30代になるとリスクを取れなくなるのかというと、実はその重さは自分の認識であって、自分が何に価値を置くかの話なので、この天秤を軽くするのも自分次第で、それを考えられるようになるとリスクが取りやすくなると思います。

また、どのコミュニティ・カルチャーに身を置いているかも大事で、例えば僕らは兄弟のように仲良くしているんですが、この中ではここで起業するのは全然難しくないし、すごく楽しいし、やっぱり最高だよねというカルチャーがあるんですよね。

普段自分が身を置いている環境や親しくしている友達など、そこで話したり聞いている内容が自分に影響を与えているので、自分がどんな人生を歩みたいかによって身を置く環境を変えていくのが大事だと思います。

Q: 起業家としての原動力はどこにあるのですか?

内藤さん: 自分の中で目指すところがあって、ジャック・ドーシーみたいになりたいし、世界中で使われるプロダクトを作りたいという想いがあるので、一回失敗しても挫けずにやり続けようと思ってますね。あとはコミュニティも大事で、挑戦し続けられる環境にいることも原動力の一つだと思います。

長谷川さん: なぜ起業家としてやっているのかと考えた時に、自分があまり人の言うことを聞けないということもあるんですが、やっぱり自分で設定した目標をチームで一緒に達成するというのが好きなんで、向いていると思いますし、続けられているのだと思います。

小林さん: 起業家というのは職種でもCEO、COOみたいな役職でもなく生き方そのものだと思っているので、自分がどういう生き方をしたいのかというのを常に考え続けた方が良いと思います。特に辛い時期があるとこのまま起業し続けていいのかとみんな悩むんですよね。

そういう辛い時は、自分の泥舟の中から物を一個一個下ろしていって、それでも結局泥舟が沈まずに行けるかどうかみたいなところが大事だったりします。なので、起業家という生き方をしたいかどうかというのを問い詰めて考えるのが大事だと思います。

あとがき

イベントでは、各起業家の方々の行動し続けたことから得られる経験と知恵がたくさん聞けました。日本の地を離れて挑戦し続ける方々を見て、感銘を受ける人が多かったと思いますし、自分ももっと挑戦し続けていきたいと感じさせられる素晴らしい会でした。登壇していただきましたみなさま、本当にありがとうございました。

寄稿者情報

渡辺圭祐 (Keisuke Watanabe)
福島県福島市出身。2017年、千葉大学法経学部法学科卒業。2018年、ワシントン大学のGlobal Businessコースを修了。ベイエリアの複数の企業でインターンを経験した後、現在はChompでプロダクト開発・マーケティングに携わる。また、ベイエリアの留学生向けにキャリアイベント・コミュニティ運営を行うNPO団体Beyond Japan SFのプロジェクトマネージャーを務める。

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