まさに間一”髪”?
編集部:永田さんのことを調べてたら、ちょっと前に日本に帰国しますみたいなことを書かれてたんですが、それはどういった経緯だったんですか?
永田さん:渡米して1年後くらいだったと思うんですけど、色々と諸事情があって日本に帰ることになってたんですよ。でも、やっぱり帰りませんでした。
編集部:あ、帰ってないんですね。
永田さん:すごくたくさんのお客さんに帰らないでくださいって言われて。「何の事情があるか知らないんですが、帰らないといけない事情の中で私ができることがあればお手伝いさせて下さい」って言われて。
そこまで言われると思ってなかったので、ちょっと心を打たれて、じゃあ残ろうと思ったんです。だから、その当時のオーナーがサンフランシスコのお店を閉めて、ロサンゼルスに来ないかって誘ってくれた時も「僕は残ります」って。
編集部:どうしても永田さんに残ってて欲しいというファンの方がいたわけですね。じゃあ、場所自体は今のお店と同じで、オーナーだけが変わったと?
永田さん:そうですね。その後、新しいオーナーになったんですが、色々あって4ヶ月くらいでお店を閉めるってなって。かなり絶望的なところを今の社長に救っていただいたという感じです。
編集部:え、どういうことですか?
永田さん:ちょうど今日でお店閉めますっていう日に、たまたまお客さんとして来たのが今の社長だったんです。でも、レセプションに「今日で終わりだから帰って帰って」って追い返されて、それで「どうなってんの?」って僕のところに電話がかかってきて。
編集部:タイミングがすごい(笑)
永田さん:「新しいオーナーになって大変だって聞いてたから、一緒に独立してサロンをやりませんか」っていう話をしに来たのに、クローズするからって追い返されてどうなってんのと。
それで、「クローズになるんだったら、この場所を買い取って一緒に始めればお客さんも残れますよね」っていうことで今の社長ともう一人と僕の三人で急遽お店を買い取って『VIANGE HAIR』をスタートしたという感じです。
編集部:そんな立ち上げ秘話があったとは。
コーディングができる美容師?
編集部:ちなみに、シリコンバレーやサンフランシスコだとお客さんもエンジニアが多いんですか?
永田さん:お客さんにはエンジニア、起業家、大企業の経営者などがいますが、とにかくテック系の人が多いですね。なので、そういう人たちに色んな話を聞いて、よく刺激を受けてます。僕の場合、仕事しながらインタビューできるので(笑)
編集部:たしかに聞きたい放題ですよね(笑)
永田さん:昔、Googleで働いていた方と仲良くなって、Googleのキャンパスに連れていってもらったことがあるんですが、色々と話を聞いて会社の考え方に衝撃を受けたんですよ。
編集部:というと?
永田さん:「20%ルール*」ってあるじゃないですか。20%の時間を本業以外の自分のやりたいことに使って良いっていう。そして、自分で思いついたことは自分で最後までやりきると。でも、日本からきたばかりの僕は「それで失敗したらどうするの?」みたいに考えるわけですよ。
でも、大事なのは「いかに早く失敗するか」なんですよね。要は、どの段階で失敗に気付いて、どう方向転換して、そこから何を学ぶのかが大事だと。日本だと、失敗をしないようにたくさんリサーチしてシミュレーションしてって感じだと思うんですが、その「まずやってみなよ」っていうのがすごいなと思って。
*20%ルールとは、仕事時間の20%は自分の好きなことに使って良いという制度で、こうした制度から東日本大震災での安否確認サイトなどが立ち上がっている。[参考: グーグル「20%ルール」の本質 | 日経ビジネスオンライン]
編集部:まさにシリコンバレー流の考え方に衝撃を受けたわけですね。
永田さん:あと、大きな会社のトップの方もいらっしゃるので、「経営とは何か」みたいな話も聞けて、こんなに色んな話が聞ける仕事もなかなか無いんじゃないかなって思うんですよね(笑)
編集部:たしかに普通だと有料セミナーで聞くような話が、むしろお金をもらいながらできるわけですもんね(笑)
永田さん:僕は美容師だし、会社もあるから、ここでやらなきゃいけないことがたくさんあるんですが、そういった方々の話を聞いてると思いつくこともたくさんあるんですよね。例えば、日本でこんなことやったら売れるんじゃないかとか。
でも、僕が事業をできるわけではないので、せめてアイデアだけは練り続けて、いつか賛同してくれる人が現れたらその人にやってもらったのでも良いのかなと。自分のアイデアが巣立って世の中を変えたというのであれば、僕はそれだけで幸せなので。
編集部:実行の部分はやれる人にやってもらえれば良いと。実際に永田さん自身がアクションしてることはないんですか?
永田さん:実は僕自身コーディングを勉強してて…
編集部:え、まさかのコーディングですか?
永田さん:そうです。
編集部:もうタイトル決まりましたね。「時代はコーディングができる美容師!?」みたいな(笑)
永田さん:(笑)
編集部:ちなみに、なぜコーディングなんですか?
永田さん:もともとはコーディングして何かを作って、「こんなもの作ってみたんだけど」っていう話がしたくて勉強を始めたんです。もしかしたら、すごいエンジニアの人が僕のぎこちないプロダクトを見て、「しょうがないな、貸してみろよ」ってやってくれたりしないかなって。
編集部:今までのようにですね(笑)
永田さん:巡り合わせでなんとかならないかなって(笑)
編集部:ちなみに、コーディングの勉強が本業に活きた経験ってありますか?
永田さん:コーディング自体が活きたことはないですけど、最近アーティストとデザイナーの違いについて教えてもらう機会があって。
編集部:それ気になります。
永田さん:僕の中では一緒だったんですけど、デザイナーさんの仕事っていうのは、クライアントがいて初めて成り立つものなんですよね。でも、アーティストの場合は自分から一方的に発信して、それを欲しいと思った人が買うと。それで、僕はアーティストじゃないんだなと。
編集部:おーなるほど。
永田さん:というのも、ヘアスタイルっていうのは僕一人で作るんじゃなくて、お客さんというクライアントのニーズと、僕の知識やセンスとが融合して初めて出来上がるものなので。だから、僕はデザイナー側なんだなって。そしてそれはプログラミングも一緒なのかなと。
編集部:いくら技術があってもお客さんのニーズがわからないと満足いくものは作れないと。じゃあ、全然関係ない業界のことを学んだことで自分の仕事を客観的に見れたわけですね。
店内の待合スペースには日本の雑誌も所狭しと並んでいる。
今後の展開 / 野望
編集部:今後はどういった展開を考えているんですか?
永田さん:まずは創業10年でアメリカ国内に10店舗お店を出すというのが目標なので、残り6年で5店舗出したいですね。
編集部:じゃあ、今のペースで1年に1店舗ずつ増やしていこうというわけですね。
永田さん:そうですね。あとは今、自社でヘアケアのプロダクトを開発をしているので、それを今年中に売り出したいなと。なので、その二つを同時にやっていく感じです。
編集部:その自社製品の開発にはどういう背景があるんですか?
永田さん:僕としてはヘアケアプロダクトの方が、アメリカの市場というかブランド力としてはすごく可能性が高いんじゃないかなと思っていて、というのも全米にヘアサロンが10店舗あっても、それを知ってる人って限られてると思うので、影響力って少ないと思うんですよね。
でも、それがプロダクトの場合、売れれば売れるだけ多くの人たちに広まっていくので、もしそれが本当に良いものであれば影響力を持てるんじゃないかと思うんです。それで、ある程度アメリカでシェアが取れたら、サロンも含めて日本に逆輸入できるかなと。
編集部:その展開の仕方は面白いですね!ヘアケアというのはシャンプーですか?
永田さん:シャンプー、ワックス、スタイリング剤もですね。基本的には頭皮の健康を考えて、「良い地肌から、良い髪を育てて、良いヘアスタイルが出来上がっていく」というものを開発しています。
編集部:アメリカに限らず、5店舗とかの規模で自社プロダクトを開発してるサロンってあるんですか?
永田さん:あまりないと思います。
編集部:じゃあ、それは今のタイミングでプロダクトを作った方が結果的により多くの人にリーチできるし、ビジョンを実現できるんじゃないかということですか?
永田さん:そうですね。いきなりパーフェクトな商品が完成するとは思ってないので、まずはうちのブランドには商品があるという認知を広げて、それが店舗展開とともにちょっとずつ成長していけば良いんじゃないかなと思ってます。
編集部:じゃあまずは小さく始めると。
永田さん:そうですね。あと、これは個人的な野望なんですが、僕は美容師だからこそ売れるものを作りたいと思っていて、例えば、プロフェッショナルな美容師が、医者が患者を診るように処方できるシャンプーだとか。ただ、それはまだ構想段階なので、プロダクトができたらお披露目させてもらいますね。
編集部:なんだかすごく気になりますが、その時はぜひお願いします!
メッセージ
編集部:では最後に、何かに挑戦したいと思っている人にメッセージをもらえませんか。
永田さん:やはり自分で踏み出せない時ってあると思うので、そういう時は自分を客観視するように一歩下がって、「お前行けよ」って自分で自分の背中を蹴るのが良いのかなと思います。それで一歩踏み出してみたら何とかなったっていうのが僕の経験なので。
編集部:他人ではなく自分で自分を蹴ると。
永田さん:だから、やりたいことや行きたい場所があるならとりあえず行ってみる。すると、その行った先はゴールじゃなくて、ただのスタートラインだったって分かるので。これはアメリカに来た人の多くが感じてると思うんですが、アメリカに来ることを目標に頑張ってると、いざアメリカに立つと何もないってことに気付くんですよね。
編集部:まさに大学受験や就職でも同じことが言えますよね。
永田さん:だから背中をドンって蹴ってもその先にはただのスタートラインしかないので、まずは行ってみなきゃ分かんないじゃんっていうのが僕の持論です。
編集部:まずは一歩踏み出して、そこで新たな世界を見て、新たな目標を作っていくと。新しい環境に入ったばかりの人にはとても刺激になるメッセージだと思います!永田さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!
まとめ
本日は、全米で5店舗ヘアサロンを運営する『VIANGE HAIR』のヴァイスプレジデント (VP) 永田明成さんにインタビューしました。
脱サラして美容師になり、33歳で渡米したという永田さんの言葉からは、なんだか勇気がもらえました。また、全ての出会いに意味があるんだろうなと思いました。僕も永田さんのように後で振り返った時に笑えるよう、Giveの精神を忘れず、自分の芯を貫いて行きたいと思います!
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