Google XのCo-founderで、現在Google NestのCTOを務める松岡陽子さん

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先日サウスベイのKumon教室にて、SF稲門会主催の講演会がありました。

▼講演者はこのお二人

  1. ヒト型ロボットベンチャーSchaftをGoogleに売却し、現在はFRACTAの最高経営責任者 (CEO) を務める加藤崇さん
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  2. Google XのCo-founderで、現在はGoogleのスマートホーム部門Nest Labsの最高技術責任者 (CTO) を務める松岡陽子 (Yoky Matsuoka) さん

Forbes JAPAN (2018年2月号) の表紙を飾る松岡さん (左)
同じくForbes JAPANで特集される加藤さん (右)

本記事は、松岡陽子 (Yoky Matsuoka) さんの講演をもとにSilicon Valley Workers編集長の中屋敷がざっくりと要約したものです。Podcastには講演会の生の音声データもありますので、ぜひそちらも聞いてみてください!(加藤崇さんの記事はこちら

松岡 陽子 (Yoky Matsuoka):
カリフォルニア大学バークレー校を経て、MITでロボティクス関連の博士号を取得。その後、カーネギーメロン大学で助教授、ワシントン大学で准教授を務める。ワシントン大学の准教授時代には、神経科学とロボット工学を組み合わせた脳卒中患者のリハビリ用義手を開発し、天才賞ことマッカーサー賞を受賞。その後、Co-Founderの1人としてGoogle Xを立ち上げ、現在はGoogleのスマートホーム部門Nest LabsのCTOを務める。Forbes JAPANの「世界で闘う日本の女性55」に選ばれており、表紙も飾っている。

幼少期からテニスに没頭

小さい頃はテニスのプロを目指してて親がKumonに行かせてくれなかったから、周りのみんながKumonに行ってるのが羨ましかったです。だから、学校でみんなのKumonの宿題をやってあげてました。そしたら、今度はみんなが出来なくなっちゃって大変だったなー (笑)

あと、幼い頃からテニスばっかりやってて、日本だとテニスが伸びないということで16歳でアメリカのフロリダに引っ越したんです。その後、カリフォルニアの高校に引っ越して、それからはプライベートのコーチも付けてテニスをやってましたね。大学はカリフォルニア大学バークレー校に行ったんですが、それもテニスが上手だったから入れた感じで、バークレーの時もずっとテニスをやってました。

でも、バークレーでは怪我をしてしまってプロになるのを断念したので、テニス以外でパッションを注げるものを探さなきゃいけなくなったんです。数学、物理、ロボットは面白いと思ってたから、それを繋げて自分と一緒にテニスしてくれるロボットを作ろうと思って、教授に相談したんです。そしたら笑わず「うちのラボにおいで」って言ってくれて、その後の2年間はその研究室で足だけで跳ねるようなロボットの研究をしました。蹴ったら転んじゃうけど (笑)

それが面白くて、教授にもっとやりたいと言うと「ロボットが強いのはMITとかカーネギーメロン大学だよ」って言われて、応募してみたらMITに入れちゃったんです (笑)

MITではニューロサイエンスを

MITでは足だけじゃなくて、手・首・頭もあるようなヒト型のロボットをグループで作ったんですが、私はテニスに一番関係している部分をやりたかったので、手と腕をやることになり、センサーでスキンも作りました。

作ってみたら、今度はコンピュータサイエンスが分からないと動かせないことに気付いて、その勉強を始めました。ニューラルネットワークとかの授業にも行って、色々と試してみたけど、結局うまくテニスができなくて、どうすればいいか教授に聞いたんです。

そしたら、「脳のことが分かってないからね」って言われて、今度は脳のニューロンの教授に「人間の脳が分からないとテニスができないからラボに入れて下さい」って言ったら、「OK!」って (笑) だから、私のPh.Dの論文はニューロサイエンスの問題を解いているものが多いですね。

でも、そのとき自分のことをワガママだなと思い始めたんです。自分のロボットを作ることしか考えてないって。だから、誰かのためにロボットを作る方が良いのではないかと思い、MITを卒業した後はポスドクとして3年間ハーバードに行って、どうすれば他の人を助けられるかについて研究しました。

カーネギーメロン大学で助教授

その後、カーネギーのロボティクスで助教授をやって、ニューロサイエンスとロボティクスが繋がったようなものを研究したんです。AIを使って、腕のない人が脳で考えるだけで動かせるようなアームを作ろうとしてました。

それからは手が面白くなってきましたね。人間って、足とか体の一部だったら、無くなっても何とか助けられるけど、手だけは厳しい。手がなくなると突然何もできなくなる。だから今度は手も変えられるようにしたいと思ったんです。だからそこで10年間教授をしました。

ちょうどその頃、双子の子供が生まれて、夫も教授で忙しかったので色々と話し合って、結局シアトルに引っ越すことにしました。私がワシントン大学で教授になって、夫はマイクロソフトで研究員になって。そこで3人目が誕生。

36歳で天才賞と言われる「マッカーサー賞」を受賞

Google X 立ち上げ秘話

その頃、だんだん世界を繋ぎたくなってて、政府から8000万ドル? (80億円?) くらいお金を集めて、教授を100人以上、生徒を300人以上、ニューロサイエンス・エンジニアリング・倫理・法律とかの学部から集めてきて大きいセンターを作ったんです。企業とも協力しながら。

そんなことをしてたら、スタンフォードでレクチャーする機会をもらって、レクチャーしにいったら、その2週間後くらいにGoogleから「明日来れないか?」って電話が来て、「明日はレクチャーがあるから厳しい」って言ったら、「明日じゃないとダメなんだ」って言われて渋々行ったんです。

そしたら、セルゲイ・ブリンラリー・ペイジエリック・シュミットっていう相当偉い人たちがいて、「これは外部には全く秘密だけど、今Google Xというものを作りたいと思ってる。Googleは検索と広告だけでは今後10年20年続かないから、今からパラダイムシフトを起こすようなものを作らないといけない。そのためにも研究者を集めた組織を作りたいんだけど興味あるか?」って。

Google XとはGoogleの秘密研究機関で、
次世代技術の開発を行なっている。

教授は辞めなくて良いし、とりあえずお金はいっぱいあげるから2年間だけ来てやってみなよって感じで。初めの2年間に「5億ドル (500億円) 使っていい」って言われて (笑) 「もし早く無くなったらもっと使っていい」って言われたから、なんだか面白いなって (笑) それでサンフランシスコに移住しました。

私はGoogle Xを始めたCo-Founderの1人なんだけど、自動運転車も出たし、グーグルグラスも出たし、あとは風船でWiFiが届かないところにWiFiを届けるっていうプロジェクトもやりましたね。アイデアとしては、「今後10年で、これをやったから世界が変わった、パラダイムシフトが起きたっていうことをやろう」という考えでやっていたんです。だから、そのおかげで今の世界も変わってきてますよね。

Nest設立の背景

それでGoogle Xを始めて1年後、たまたま生徒のマット・ロジャース*と出会って、「今Appleにいるんだけど、今からサーモスタットを作るスタートアップをやる」って言われて、向こうは全然マシンラーニングのことを知らなかったから、私がずっと教えてあげてたんです。そしたら「あなたがいないと出来ないから来てくれ」って。

*ロジャース氏は「iPod」の開発に重要な役割を果たした人物で、初代「iPhone」および「iPad」の最初のエンジニアの1人。

私はずっと研究をしてたけど、人の暮らしを便利にするものは作れてなかったし、マットが「10ヶ月で製品を売り出す」って言ってて、もし今アイデア段階のものが10ヶ月でスーパーの棚に並ぶのであればそれは学ばないといけないなということでGoogleをやめて、パロアルトのガレージでNestを始めました。

2010年に10人くらいでスタートして、今では1000人くらいかな。プロダクトも初めは3つくらいしかなかったけど、今では14個もある。結局、2014年に32億ドル (3200億円) でGoogleに買われました。私はCTOとしてUI/UXやマシンラーニングといった、いわゆる人間と機械が交わるところをやっていて、マットがバッテリーとかをやってたかな。

Nest Labsはサーモスタットやドアベルなどの人工知能が搭載されたスマートホーム製品を販売している。

Google、“iPodの父”のスマートホーム企業Nestを32億ドルで買収 | ITmedia

今から3年間で、サンフランシスコにある全部の家のエネルギー60-70年分くらいを節約できるものを作ろうとしてるけど、マシンラーニングがうまくいって、今のところ20年分くらい節約できてる。

ただ、人間と機械の関係は難しくて、人間は自分ができることまで機械にやられるのが嫌いなんです。特に、人間はこうだからっていう仮説が多いとダメになることを学びました。当時は2011年だったけど、その時のフィールドトライで失敗して、次の2-3ヶ月は人間とちゃんと共存できるマシンラーニングを作っていこうと決意したのを覚えてます。

だから、AIをやるときは、人間がやりたい以上に学んだり節約したりしないことが大事エネルギーを節約したい人はすれば良いし、したくない人はしなくて良い。そういう選択ができるとうまくエネルギーが節約できる。それに気付いて以降は人間のことをちゃんと理解して、人がやりたい方向に伸ばすという考え方でやってます。

Nestを出て、またNestへ

会社が大きくなってイノベーションが足りなくなってきたから、2015年に一度Nestを出たんです。それで今のFitbitみたいなものを作るスタートアップをはじめて、Appleに売却して、その次はAppleで2015年から2017年までヘルスケア部門の担当をやりました。

そんな中、どこにいけば自分のやりたいこと(テクノロジーを使って人の役に立つものを作ること)ができるのかと考えていたら、またNestが出てきたんです。それで2017年にまたCTOとして戻って来て、今度はモノを作るだけじゃなくて、どうすれば家の中から人間の生活を助けられるかを考えたんです。

Nestに戻った当初は、「何を言ってるんだ、我々のカルチャーと違うよ」って言われたけど、毎月みんなの前で、「今はここにいるけど、こういうものを作っていくんだよ。そういう会社になるんだよ。」って言ってたら、少しずつみんながそっちに向いてくれて、今はそっちに向かって走ってる感じが楽しいです。

振り返ってみると

だから、今振り返ると、戦略的・長期的ビジョンみたいなものは持ってなかったけど、毎日自分がパッションのあるもの、後悔しないものを選んで来たからこそ、今があるんじゃないかなって思います。スティーブ・ジョブズの「Connecting the dots」みたいな感じで、その当時はそれぞれの「点」が繋がるなんて思ってなかったから。

時々自分の子供を見ていて、将来役に立たないようなことをしてるなって思うんです。Kumon以外ですよ (笑) でも、自分も大好きだったテニスを通して、負けることの悔しさとか努力することの大切さを学べたわけだから、何かものすごく好きなものがあるなら、まずはそれを頑張ってもらいたいなと思います。

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ここからは質疑応答へのご回答です!

Q&Aコーナー

ー採用時、どうやって人を選ぶのか?

今から学びたいっていう気持ちが大事。もう一つはミッションドリブンで、本当に世界を変えたい人かどうかを見てる。そういう人は、最初は遅くても頑張るから色んなことを吸収して伸びる。

ー技術に馴染みのないユーザーに使ってもらうために、プロダクト開発で意識していることは?

まずは人間を知る必要がある。どういう人が、何をやるのが大変で、何を欲しているのかを完全に調べて、それがテクノロジーとマッチすればやるし、しなければやらない。それを最初に考えてやらないとダメ。

ー子供の教育において、親が子供の意欲の芽を積んでいるのではないかと感じている。どうすれば良いか?

親の教育もちゃんとやらないといけないと思う。今「The Teenage Brain」という本を読んでるけど、「なぜ子供たちは今これを理解出来ないのか」っていうのを親が分かってると怒る量も減るとのこと。まだここの脳とここの脳が繋がってないんだなって思うと、しょうがないって優しくなれる。ただ、どういう教育を親にすれば良いのかは難しいと思う。

ー日本人であることに優位性を感じたことは?

女性として辛いのは、ちょっとでしゃばってるとうるさいってなるし、逆におとなしいと上に上がっていけないこと。日本の女性としてそこをバランスしてきたおかげで今の自分があるんじゃないかと思う。

ー日本から世界的な企業が出ない理由とは?

シリコンバレーはアメリカの中でもちょっと特殊で、例えば、失敗するのが当たり前として、それでもみんな一生懸命やるというカルチャーがある。それが自分のパッションなら一生懸命3年やってダメでも、また次に何かを見つけてやっていけるっていう人は多い。そして、それをサポートするネットワークとカルチャーがある。特に、コンピュータサイエンスとかの技術を持っていれば、それで何とかなるから心配がないのかな。日本だとそれが少ないのかもしれない。

あと、分野でいうと、日本で小さい時からAIとかコンピュータサイエンスに力を入れてるところがない。そういうのをもっと小さい時からカルチャーに入れても良いんじゃないかと思う。

ー企業のカルチャー作りで大事なことは?

カルチャーは会社の大きさで変わる。会社が大きくなっても、何が今までのカルチャーで大切だったかをしっかり考えることが大事。Nestだと一つあるのが一緒に仕事してる人たちへのリスペクト。これは会社が大きくなっても無くさないように、忘れないようにみんなで約束してる。

もう一つは会社が作るモノのカルチャー。NestはAppleとかのカルチャーも入って来ていて、使いやすくて買いたくなるようなデザインになるよう意識している。そういったことを認識しながらカルチャーを作っていくことが大事。

ー子育てと両立するコツってありますか?

ないです (笑) 100点をあげようとすると絶対できないから、もう少し自分に優しくしないとなって思います。これはひどいなって時はミーティングを減らしてバランスをとる。毎日バランスを取るのは無理だから、1週間とか2週間で見てバランスを取ってる。そうじゃないと家族がダメになるから。仕事でもNoって言えるように頑張るんですけど、まあ無理ですね (笑)

ー高校生へのメッセージ

この人みたいになりたいっていう人を見つけて、その人にメンターになってもらう。アドバイスをもらいながら上にいって、そしたらまた次の人に声をかける。そういうのをやっていけばうまくいく。あと、私は高校生の時、失敗することの大切さを知らなかった。でも失敗しないと成功はない。これは覚えておいてほしい。

ーピンチの時の気持ちの切り替え

難しい質問ですね。私はどうしたらいいかわかるのに時間がかかりました。毎回悲しくてベッドに入って泣いたりもしたけど、最近は瞑想してます。瞑想すると人生が将棋に見える。人生はゲームみたいなもので色んな勝ち方があるって。毎日1分瞑想するだけでも考え方が変わってきて、それはすごくためになった。

まとめ

Google NestのCTOでありながら、4人の子供を育てる松岡さん。朝は3時に起床しメールをチェック。その後、子供を学校に送り出し出勤。そして15時には退社し21時には寝るという何とも規則正しい生活をしているそうです。僕も規則正しく、目の前のパッションに従って生きていきたいと思います!

▼松岡さんが気になった方はこちらもどうぞ!

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  • 「壁」破り、シリコンバレーで起業する日本女性たち | Nikkei Style
  • Apple、元Google X→Nestの松岡陽子氏をヘルスケア幹部として採用 | ITmedia

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SiliconValleyWorkers編集長。愛媛県松山市出身。2016年、東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻(相田研)修了。工学修士。現在はシリコンバレーのIT企業で仕事中。座右の銘:「現状維持は衰退のもと」

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