5月30日から6月1日に渡って世界最大級のVR/ARカンファレンス『AUGMENTED WORLD EXPO 2018』(通称: AWE) がシリコンバレーの街、サンタクララで開催されました。
自分もCEOにお世話になっている会社がEXPOでブースを出すということで手伝ってきました。今回は、ブースの隙間時間を使って見て回った企業の紹介とEXPOを通して感じたことをお伝えできればと思います。
▼本記事の内容
ーーーーーーーーーーーーー
・会場の雰囲気
・VR/ARの最新動向
・企業紹介
・終わりに
ーーーーーーーーーーーーー
会場の雰囲気
1日目は講演のみで、2日目、3日目が講演/EXPO同時開催という計3日間のイベントでした。規模はVR/AR界では世界最大級で、世界各国から400名以上の登壇者が参加し、230以上の企業が出展していました。
会場の様子: 内容はAR, AI, アプリ開発と多岐に渡る
EXPOの雰囲気
Startup、Eyewear、Tools、Enterpriseと様々な区画に分かれ展示が行われており、Playgroundという様々なVR/ARコンテンツを体験できるコーナーもありました。
VR/ARの最新動向 ー産業への応用が進む
ここからは僕がAWEで感じたこと、そして、そこから垣間見るVR/ARの最新動向について書いていきます。
まずVR/ARと聞くと、多くの方がゲームを思い浮かべるのではないかと思います。特にVRはプレイステーションを中心に数多くのゲームコンテンツがあり、ARだとポケモンGO (正確にはARではありませんが) のイメージが強い方もいらっしゃると思います。
たしかにVR/AR産業はこれまでゲーム開発が中心でしたが、近年ではARを中心にその性質が変化しつつあり、今回のAWEのEXPOではその流れが顕著に表れていたと思います。
もちろんゲームなどのエンターテイメント向けコンテンツもいくつかありましたが、『SXSW』や『VRLA』などのカンファレンスと比べ、より実用的なものが多く、インダストリー向けのコンテンツが大半を占めていたように思います。
その中でも、工場や医療現場での利用を想定したARソフトフェア/グラスであったり、E-コマースや小売などの商用的な利用を想定したアプリケーションも多く見られました。
また、リモートタスクアシスタンスや知識共有を行うためのアプリケーションも見られ、「知識・情報の伝達」が今回の展示のキーワードになっていたのではないかと思います。
企業紹介
ここからは僕が面白いなと思った企業をソフトフェアサービスを中心に紹介していきます。
E-コマース:Geenee
『Geenee』は、Geeneeを搭載したカメラでテレビ、Youtube、雑誌、看板などのコンテンツを撮ると、その製品情報が取得できるという画像認識エンジンです。
ハードウェア、ソフトフェアに関係なく搭載可能で、その例としてSnapchatにより開発されたSpectaclesや一眼レフカメラ、iOSへの搭載が紹介されていました。
デモでは、鑑賞中のYoutubeをスクリーンショットして、そこからGeeneeのアプリに移るとその動画に出ていた服や靴の情報が簡単に見ることができ、さらにワンタップでショップまで飛ぶことができていました。
企業はGeeneeのページ上にコンテンツ情報とリンク先をアップロードしておくだけで、どの媒体、コンテンツにその製品が表示されていても100%認識されます。その正確性は高い画像処理技術により実現しているそうです。今後の動向が気になる企業の一つです。
小売:GuideBot
『GuideBot』は店の中で自分の行きたいコーナーを選択するとスマートフォン上のキャラクターが店の中を案内してくれるというアプリケーションです。
将来的には、多言語に対応したAIチャットボットが会話をしながら行き先を案内してくれるようになるアプリケーションを目指しているようです。また、小売業界以外にも、博物館、空港、オフィス、動物園などへの導入を想定しているそうです。
ファッション:3DLOOK
ファッション業界にはなりますが、『3DLOOK』は画像処理、マシーンラーニング、3Dマッチング技術を活用し、正面と横から写真を撮ることで、自分の体型 (スリーサイズ) や身長、適した服のサイズを知ることができるアプリケーションです。
インダストリー系:Visionaries 777 Ltd.
『Visionaries 777』は、車や家具といった複雑な工業製品やエンジンを3Dモデル化し、Web、VR/AR、モバイルなどのあらゆるプラットフォーム上で分解・解析できるようにするソフトウェアツールです。
そのため、企業のR&D、マーケティング、トレーニング、機械のメンテナンス、プロダクトデザイン、セールス活動に役立てることが可能です。
例えば、3Dイメージでビジュアライズされることで、実物では見えづらいところまで見ることができ、さらにパーツの説明も加わることで作業の効率化、知識の伝達をスムーズに行うことができます。
また、製品の細かな動きを再現できるため、マーケティング、セールス面において顧客への説明が容易になるといった活用例も挙げられます。すでにいくつかの導入実績もあるようです。
Visionaries 777の展示ブース
ARプラットフォーム:8th Wall
『8th Wall』は、iOSやAndroidを搭載した複数のスマートフォンに対応するARアプリケーション開発プラットフォームを提供するスタートアップです。
現在スマートフォンを使用したARプラットフォームは複数あり、例えば、Appleは「ARKit」、Googleは「ARCore」をそれぞれiOS、Android向けに提供しています。
8th Wallはクロスプラットフォームにより、これらの開発環境の違いによる開発の手間を省き、シームレスにアプリケーションを動かすことを可能にしています。またUnityなど既存の開発プラットフォームにも対応しているようです。
8th Wallのようなクロスプラットフォームにより、ゲーム市場のみならずE-コマース、小売、工業、教育などの市場にもモバイルARの普及が進んでいくと思います。
8th WallのCEOが講演していた時のスライド
AR Lens:
これらのアプリケーションを動かす上で、新しいハードウェアとなりうるのがARグラスです。この分野は、東芝、OLYNPUS、EPSONといった日系大手企業の展示も多く見られました。スタートアップもいくつかありましたが、やはりハードはODGを代表に大手企業の割合が多い印象でした。
『ODG』(Osterhout Design Group) はサンフランシスコに拠点を置くスマートグラスの開発を行う企業で、つい先月KDDIとスマートグラスの企画・開発を共同で行なう戦略的パートナーシップを締結したことを公表していました。
ODGの展示ブース
今回のEXPOではかなりの種類のスマートグラスが展示されていましたが、多くはグラスのフレームに取り付けるタイプのものでした。それを装着すると、小さなスクリーンがグラス上に表示され自分の視界を邪魔することなく作業ができる仕様になっており、操作は取り付けたフレームの右横あたりでできます。
付属のコントローラと接続して使うタイプ (EPSONのMOVERIOが相当) のものもあり、その場合スマートフォンのような感覚で操作することが可能です。
EPSONのMOVERIOの展示ブース
Wi-FiやBluetoothにより動画などのデータをスマートグラスに保存しておくこともできます。
ODGのR9は約20万円、OLYNPUSのEyeTrek INSIGHT EI-10は約15万円、EPSONのMOVERIOは約7万円と価格はまだまだ高いですが、より安価になり、様々な場面への導入が進めばインダストリー4.0に向けて大幅な作業の効率化、新しい映像体験、リアルな世界との融合という形で、ますます発展していくのではないかと思います。
その他ARグラス
『UNIVET』のプロトタイプを試している僕です(笑)
右指で触れている場所で操作が可能です。
終わりに
僕が今回の『AWE 2018』のキーワードを挙げるとしたら、それは「Solution」だと思います。
工業、マーケティング、トレーニング (会社内での知識の伝達) 、教育、ビッグデータといった様々な分野における新しい形のSolution。それはハード、ソフト、プラットフォーム全てに共通していたように思います。
より大きな目で見れば、インダストリー4.0という大きな革命に向けて、技術は着実に進んでいるように感じました。「8th Wall」のような開発ツールやプラットフォームの充実により、その流れは今後ますます加速していくと思います。
興味を持たれた方は、ぜひ来年のAWE 2019に参加してみてはいかがでしょうか?
寄稿者情報
中町 諒佑
(Ryosuke Nakamachi)
1996年生まれ。2015年、早稲田大学商学部に入学。本場のスタートアップ、テック文化を肌で感じるため、3年次を1年間休学してサンフランシスコに渡航。アート・文化・テクノロジーの繋がりに興味があり、それらに関する情報を『Medium』で発信している。プログラミングを独学中。
(文・写真: 中町諒佑 / 編集: 中屋敷量貴)
SiliconValleyWorkers 編集部です。シリコンバレーやサンフランシスコで働く日本人を取材して、キャリア観や価値観、シリコンバレーに来た経緯などを発信していきます。寄稿や運営に興味がある方は、Facebook、Twitter、Slackよりご連絡下さい!
現在、運営者のKazuki Nakayashikiはソーシャル知識管理ツール「Glasp」を運営・管理しております。合わせてよろしくお願いいたします。