JPモルガン、ソニーというエリートキャリアを経て、アメリカでゼロから会社を立ち上げた男が気づいた本当のやりがいとは?

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認識ギャップと人材バランス

編集部:JPモルガンから転職したときのソニーの印象はどういうものだったんでしょうか? 何か違和感を感じた部分とかはありましたか?

石川さん:ありましたね。これはあくまでも個人的な感想ですが、1つ目は、ソニーという会社に対する社内と社外の「認識ギャップ」です
JPモルガンに入社した時からソニーに入社するまでの約3年間で、ソニー株価は5分の1以下に急低下し、格付けもズルズル落ち始めていたのにも関わらず、ソニー社内にはそんな認識はなく「我々はソニーだ」とも言わんばかりの高い自己評価に認識ギャップは感じていました。

編集部:内側と外側で認識の乖離があったと。

石川さん:2つ目は、「人材バランス」です。当時のソニーの組織は、明確な職種分類があって、総合的な経営とマネジメントを意識していた人材が少ないという印象を持っていました。
特に、技術・商品企画・営業・法務・人事等、何か一つの専門分野に能力を持った人が経営判断を行っている傾向が強かった印象があります。

編集部:もしかしたらこれらが長い経営不振の原因だったのかもしれませんね。
その印象は今ではどう変わりましたか?

石川さん:今は、長い苦境を経験し続けてきたので「我々はソニーだ」なんて、誇りはあっても驕りはないと思いますし、社外から積極的にマネジメントを採用したり、社内の新陳代謝も良くなり、「人材バランス」も良くなってきていると思います。そうでなければ、ソニーが新規事業にチャレンジすることや、ソニーの出資でTakeoff Pointを立ち上げるなんて、考えられませんでしたからね。これも個人的な意見ですが(笑)

編集部:なるほど、そう言われると説得力がありますね! その他に、何か変わったと感じる点はありますか?

石川さん:あとはマネジメントスタイルの変遷もソニーの経営に大きく影響をもたらしてきたかもしれません。
組織論を専門とするミンツバーグという経営学者が、マネジメントには「クラフト」、「アート」、「サイエンス」と、3つのスタイルがあり、その3つのバランスが大事だという話をしているんですね。
簡単にいうと、「クラフト」は経験ベースで仕事をする人、「サイエンス」はデータやフレームワークを使って仕事する人、「アート」は世の中こうなる!みたいなビジョンを軸に仕事をする人。

それで、昔のソニーは、強いビジョンを持った「アート」タイプの創業者や経営者が引っ張ってきた会社だったと思うんです。

編集部:たしかに、イメージ的にはそうですね。

石川さん:しかし、ソニーショック時点でのマネジメントには、過去に「アート」型の周りで事業を大きくしてきた経験がある「クラフト」型が多く、そうすると「アート」型のマネジメントがいない中、新しいものが生まれにくく、「サイエンス」型も少ないから、客観的な見方ができない状態になったりして、マネジメントスタイルのバランスが崩れていた可能性も考えられるわけです。

編集部:時代の変化と共に知らぬ間に偏りができていたんですね、、、

石川さん:それで私はアートにはなれないし、クラフトは時間が掛かるし、でもサイエンスなら努力で出来ると思って、ソニーの留学制度を使ってビジネススクールでビジネスの理論を徹底的に勉強したんです。
卒業して10年近く経ちますが、ビジネス理論の勉強は続けていて、それは勉強するだけでなく、その理論をTakeoff Pointで実践するようにしています。「目指せ、サイエンス!」は、僕のマネジメントスタイルと決めたからです(笑)

編集部:なるほど、それでMBAを取得されたんですね!

お前は「アクセス」が出来てない

オフィスの入り口には最新のPlayStation VRも含めて歴代の全PSシリーズが飾られている。

編集部:ソニーではCEO室に所属し、トップマネジメントの方々とお仕事をされていたとのことですが、その経験は今も活きているんですか?

石川さん:会社の経営者になりたいっていう意志はずっとあったので、前CEOのハワード・ストリンガーや、現副社長CFOの吉田のスタッフをやっていた時は、彼らの経営哲学やノウハウを全部吸収してやろうと思っていました(笑)

自分の会社の人をこういうのも変な話ですが、ソニーのトップマネジメントは本当にすごい方たちで、仕事への向き合い方や人との対話の仕方はもちろん、健康管理の仕方なんかも徹底されていて、生き方が”一流の男”って感じでした。(笑) その人たちのもとで仕事が出来たことは、すごくラッキーな経験で、そこで修得したことは今も活きていますね。

編集部:それはどういう部分に活きてるんですか?

石川さん:沢山ありますよ。例えば、Takeoff Pointでの意思決定をする時には、「アカウンタビリティ」を常に意識しています。これは、今のトップマネジメントが強く意識していた経営の規律で、その判断の合理性を第三者にしっかり説明・説得出来るか、また、その説明通りのアクションを実行することが出来るかということです。私もこれをいつも自問自答しながら、判断をしているつもりです。

編集部:なるほど。生活面では何か影響を受けた部分はありますか?

石川さん:生活面でも真似している部分は沢山あります。例えば、フィジカルとメンタルというのはやはり「車の両輪」のようで、どっちかが狂うとどっちかが上手くいかなくなっちゃうということですね。そこのバランス管理を、トップマネジメントは自分で徹底していた印象です。だから私もアメリカに来てからは、労働時間は長いけど、運動は必ず毎朝やっており、そのおかげで心も身体もコントロールがちゃんと出来ているのだと思います。

編集部:なんかトップマネジメントの体調管理って本とか書けそうですね!

石川さん:彼らはそこらへんは超ストイックですよ(笑)
あとは言われた言葉にも大きな影響を受けています。例えば、前CEOのハワード・ストリンガーに、「経営者として必要な要素は3つある」と言われたことがあるんです。

ハワード・ストリンガーはソニー創業以来初の外国人CEOを務めた。

石川さん:1つは「インテリジェンス」。勿論、勉強や学歴や資格だけじゃなくて、人との会話の仕方、行動や振舞などのインテリジェンス。
もう1つは「パーソナリティ」。努力を惜しまず、前向きであり、やはり周りの人に嫌われる人はダメだと。
それで、あともう1個は「アクセス」だって言われたんですよ。

編集部:「アクセス」ですか?

石川さん:これは意外だったんですが、CEO室から異動するときに最後にハワードに言われた言葉で、「立派な経営者になるには、アクセスが必要だ。アクセスに関しては、お前はまだまだ出来ていない」って言われたんですよね。

編集部:へぇ〜、それはどんな理由だったんですか?

石川さん:どういうことかというと、会社に職を与えられて、会社に仕事を与えられて、会社にポジションも与えられてキャリアがある。社内の留学制度で行ったMBAも、自分で獲得した権利ではあっても、元々は会社が与えてくれたチャンスだ。CEOのスタッフという貴重な経験も、会社が与えてくれたもの。結局、全て会社に与えられてアクセスを手に入れているんだと。

しかし、「与えられてアクセスを手にすることに慣れてしまうと、自分からアクセスを奪いに行くことが出来なくなる」と。「経営っていうのは自分からアクセスを取りに行かないといけないんだ。今のままだと、経営者どころか、アクセスを自分から奪えない人間になるぞ」って言われたんです。

編集部:なるほど、それは深い言葉ですね。

石川さん:ハワードにそれを言われた当時は、周りに評価してもらって、「与えられること」でキャリアを積み重ねることが当然だと思って生きていたので、その言葉をあまり深く考えなかったんです。

でも、こっちでTakeoff Pointを始めて、「何もしなければこの会社倒産する!」と気づいた時、ふと「ハワードが言っていたのはこれだ!」と、この言葉が落ちてきたんです。それからは、自ら「アクセス」を手に入れられるように、がむしゃらに動くようになりました。
そういった意味でトップマネジメントの言葉や考え方は、今にすごく活きてるなぁと感じていますね。

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1990年6月8日生まれ。埼玉県川口市出身。
2013年、一橋大学商学部経営学科卒業。株式会社SpeeeにてSEOやWebマーケティングのコンサルティング等に3年半従事したのち、イノベーションの最先端であるシリコンバレーでチャレンジしたいと考えて渡米。現在は、UC Berkeley Extensionにて経営とプロジェクトマネジメントを専攻。
座右の銘は「やらぬ後悔よりやった後悔」。

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