先日サウスベイのKumon教室にて、SF稲門会主催の講演会がありました。
▼講演者はこのお二人
- ヒト型ロボットベンチャーSchaftをGoogleに売却し、現在はFRACTAの最高経営責任者 (CEO) を務める加藤崇さん
/ - Google XのCo-founderで、現在はGoogleのスマートホーム部門Nest Labsの最高技術責任者 (CTO) を務める松岡陽子 (Yoky Matsuoka) さん
Forbes JAPAN (2018年2月号) の表紙を飾る松岡さん (左)
同じくForbes JAPANで特集される加藤さん (右)
本記事は、加藤さんの講演をもとにSilicon Valley Workers編集長の中屋敷がざっくりと要約したものです。Podcastには講演会の生の音声データもありますので、ぜひそちらも聞いてみてください!(松岡陽子さんの記事はこちら)
加藤 崇 (Takashi Kato):
早稲田大学理工学部で物理を専攻。東京三菱銀行 (現・三菱東京UFJ銀行) とKPMG日本法人にて、法人融資業務や企業再建などに10年ほど従事。東大発のヒト型ロボットベンチャー「Schaft」のCo-Founder兼CFO。アメリカ国防高等研究計画局 (DARPA) のヒト型ロボットコンペティションでは、NASAなどの強豪を差し押さえて優勝。その後SchaftをGoogleに売却し、現在はマシンラーニングを使って水道配管の最適な修理計画を提案する「FRACTA」のCEOを務める。
FRACTAについて
「FRACTA」は、マシンラーニングを使って水道配管の最適な修理計画を提案する会社です。アメリカには全長100万マイル相当の上水道配管が地中に存在していて、年間24万件の物理的欠陥による水漏れが起こっているんです(東京の漏水は年間に200件。日本すごい!)。
一般的な水道管(ねずみ鋳鉄管)の寿命は平均100年くらいですが、その寿命は60年から200年と分散が大きいんです。現在の水道局はベテランの経験に基づいた推測で毎年水道管を修理しているんですが、本来交換しなくて良いものもまで修理している可能性があります。それよりは来年漏れそうなものを先にやるべきですよね。
「FRACTA」のマシーンラーニングは環境変数(土、空気、天候など)にパターンをかけて、このあたりの水道管が劣化しているに違いないと推測し、水道局に声をかけていくんです。アメリカでは今後30数年で水道配管の水漏れを止めるだけでも100兆円ほどのお金がいると言われていて、FRACTAはその100兆円のうち40兆円を削減することができるんです!
FRACTAはマシンラーニングを使って水道配管の最適な修理計画を提案する会社
キャリアの始まり
早稲田大学の理工学部では物理を勉強しましたが、新卒では当時 (2002年) 一番人気だった東京三菱銀行 (現・三菱東京UFJ銀行) に入行しました。なので、10年弱はテクノロジーと関係のない企業再建などに従事しましたね。
そんな中、「企業の立て直しだけでは経済が良くならない」と気付いたんです。企業の立て直しは経済が小さくなることを抑えているだけだと。物理を専攻してたのにそれに気付けませんでした (笑)
ヒト型ロボットベンチャー “Schaft”
2011年から大きく舵を切りテクノロジーに関わるようになりましたね。当時は「会社を渡されればどうすれば良いか分かる」という名声があったこともあり、友人からヒト型ロボットの有名な研究を行なっている東大の助教授二人を紹介されました。
初めはかなり半信半疑だったけど、「人が蹴っても倒れないロボット (下に動画あり) 」を見て、これは素晴らしいと思ったんです。二人には「これが日本最高峰のテクノロジーだ」と言われ、足が何足であろうと歩行技術を使う以上はこのテクノロジーが重要になって来ると確信しジョインすることに。
2013年、アメリカ国防高等研究計画局 (DARPA) のヒト型ロボットコンペティションでは、NASAやカーネギーメロン大学などの強豪を差し押さえて優勝。ファンディングや補助金も勝ち取りました。その後、得られたお金で技術を発展していたら、当時Googleの副社長だったアンディ・ルービンが「Googleロボティクスが未来を切り開くんだ」ということでGoogleに買収されました。
FRACTA設立の背景
SchaftがGoogleに買収された後、一緒にやっていこうと言われたんですが、「もっと色んなことがしたい」とGoogleにはジョインしませんでした。でも、他のロボットの話がかなり入り込んできて、一つ面白かったのは蛇型のロボットで配管をチェックできるというものですね。
石油会社は熱交換器の点検に相当のお金をかけていて、点検1回で2000万円とかもらえるんですが、結構面白そうだなということでジョインして渡米しました。ただ、その産業にはもっと安くて単純な方法があって、自分たちのものでやる必要はなかったんです。。。
なので、ガス産業、水道産業と産業的に競合が少ないところにどんどん避けてきて、どんどん儲からない産業にやってきてしまいましたね。ハードウェアだとしんどいから、ソフトウェアで水道配管を分析する方が時代背景としても良いよねとなり、それでロボットではなく人工知能の会社にしようと分割したんです。それがFracta設立の背景です。
なので、極めて偶然的にヒト型ロボットに出会い、その縁が僕をアメリカに渡らせて、人工知能にめぐり合わせて、ハードウェアからソフトウェアに来たと。ただ結論からいえば、良いアプリケーションが出てきていると思います!
左が水道局の予測で、右がFRACTAの技術を用いた予測。長期の目で見ると大きな差が生まれる。
今後の展望
ガス配管は全米に60万マイルほどあって、つまり水道管の2/3くらい存在するんです。FRACTAの技術を使えばそれを全く同じアルゴリズムで解析できるので、地下の埋設アセットに関しては綺麗にマッピングして評価できるんです。インフラの産業をものすごい勢いでデジタル化できるところにチームも相当興奮しています。
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ここからは質疑応答へのご回答です!
Q&Aコーナー
ー採用時、どうやって人を選ぶのか?
大切なのはパッション。パッションがないと些細なことで上手くいかなくなるし、チームにはなれないだろうと思う。
ー技術に馴染みのない顧客へのアプローチ
ソフトを売っている相手が、水道会社のようなテクノロジーにあまり詳しくない人たちだから結構苦労してる。テクノロジーにフォーカスしすぎると会話にならないから、まずは一旦テクノロジーの話を外して相手の問題を切り取ってあげる。「これを解決しないといけないですよね。僕らなら解決できますよ」と。そこから少しずつテクノロジーを浸透させていく。
ー子供の教育において、親が子供の意欲の芽を積んでいるのではないかと感じている。どうすれば良いか?
一回やってみることの重要性を大事にしている。例えば息子が20ドルを持っていて、トイザらスでガチャガチャをやりたいと言った時に、「そんなのどうせ後悔するからやめなさい」と言うのではなく、まずは彼のやりたいようにやらせてあげる。そこをあえて理屈で同期させる必要はない。彼自身が後悔するかどうかを決める必要があって、それはスタートアップも同じで、まずは彼らのやりたいようにやらせてあげるのが良いのかなと思います。
ー日本人であることに優位性を感じたことは?
あります。僕らは水道配管を適切なタイミングで交換するソフトウェアを作っているわけですよ。それって日本で育った僕らからするとすごく当たり前だと思うんですが、アメリカではそれが行われてこなかったと。だから、日本の電車が時間通りに着くのも含めて、日本人であること、日本で育ってきたということがビジネスモデル、ビジネスプラン、発案、選ぶインダストリーとかにも影響してるとは思いますね。
ー日本から世界的な企業が出ない理由とは?
カルチャーの部分が大きい。日本だと誰もやったことがないことをやってると大丈夫かなってなるけど、こっちだと周りが変わってることとか問題を解決することにすごく前向き。だから閾値問題だと思う。日本は少し抑圧的で何か言っても閉じ込められてしまうカルチャーがあるから、もう少し膨らんで閾値を抜ければ市場に出てくると思う。
ー企業のカルチャー作りで大事なことは?
企業の中核になってる人たちがどういう風に物事を考えているかが、企業のカルチャーになりやすい。日本語だと言行一致が大事で、綺麗なことをいうのは簡単だけど、本当にその人がその言動通りに動いているかはみんな見ている。そして、それが会社のカルチャーを生み出している。だから、言行一致しているかは大事だと思う。
ー機械学習には大量のデータが必要では?
僕らの情熱のおかげか、一番最初のβパートナーにサンフランシスコとオークランドの水道会社が動いてくれた。オークランドの会社は全米トップ10のような大きい会社で、6000キロ相当の配管を持っていた。しかも、過去の損傷に関して、それが物理的な損傷なのか、化学的な腐食なのかをちゃんと記録していた。その綺麗なデータを一番最初のモデルに使えたというのは大きい。
ー高校生へのメッセージ
今思ってる通りに人生が進まなくても良いし、リニアに進まなくても良い。延長線上で行くことが良いことだと思ってたが、人生はそうじゃないから、今やりたいことがあるなら、まずはそれをやってみると良い。「あなたのおかげで今のビジネスがある」みたいなことをやってると良いかも。
ー落ち込んだ時の気持ちの切り替え
広田弘毅が言った言葉に「風車 風が吹くまで 昼寝かな」という言葉がある。今答えが出ない局面はある。でも将棋みたいな感じで、明日になると盤面が動くということがある。答えを焦りすぎると、それが恐怖に変わって絶望に変わってしまう。だから、局面が変わるのを待つことも一つの戦術。辛い時やピンチの時は待ちの盤面だと思うことも大事だと思います。
まとめ
かなり示唆に富んだ内容で、聞いている側がわくわくするような講演会でした!目の前のことを必死になってやってきたら、気付くととんでもないところまで登りつめていた加藤さん。僕も加藤さんのように、まずは目の前にある自分のパッションに従って生きていきたいと思います!
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