インタビュー8本目はシアトル出張編ということで、ワシントン州レドモンドにある米国Microsoft本社でクラウドサービス『Azure』のグローバルマーケティングを担当する石坂誠さんにインタビューです。
石坂 誠 (Makoto Ishizaka):
2002年、早稲田大学法学部卒業。新卒でNECに就職し、化学業界向け法人営業を担当。2007年、米国ユタ州にあるBYUにてMBAを取得。その後、日本Microsoftにてプロダクトマネージャとプラットフォーム戦略を担当。2013年より米国Microsoftにて、オープンソースならびにクラウドビジネスのグローバルマーケティングを担当している。
今何をされているのか?
編集部:今は米国Microsoft本社にて、Microsoft Azure (マイクロソフト・アジュール) のグローバルマーケティング戦略を担当されているということですが、具体的にはどんなことをされているんですか?
石坂さん:今は、プロダクトを作るエンジニアチームとマーケティングメッセージを作るチームの隣で、どうやってそのプロダクトを世界各国にブランディングするのかという戦略を見ています。なので、毎日各国のブランドマネージャーとやりとりしてますね。彼らへのマーケティング予算の割り振り方とか、GTM (Go To Market) の部分の戦略を決めて、あとはそれをどうやって彼らと実行していくかを毎日考えてます。
編集部:では、文字通りグローバルマーケティングの全責任を負っていると…
石坂さん:特にその中でも、オープンソースのテクノロジーに関するグローバルの売り上げ責任を負ってます。だから、売り上げそのものがコミットなんです。おそらくそれが他の会社のマーケティングと1つ違うところかなと思いますね。
編集部:ちなみに、何カ国ぐらい担当されてるんですか?
石坂さん:全世界です。日本もOne of Themです。Microsoftのオペレーションとしては全世界140カ国ぐらいにAzureが展開してるんですが、我々はそれを14のエリアに分けてるんです。例えば、アメリカは1つで大きなエリアですし、日本も実は1つの大きなエリアとして見てます。
編集部:そして、複数の国で1つのエリアになっているところもあると。
石坂さん:そうですね。例えばアジアだったら日本と中国を抜かしたアジアを1つのエリアとして見ていて、そのHQがシンガポールにある感じです。それがアフリカだったらもっと何十カ国とあって、そのHQがドバイにあるんです。なので、私はその拠点と直接やりとりをして、あとはその担当がアフリカ全域を見るというオペレーション体制ですね。
編集部:例えば、各エリアごとにどういうキャンペーンをやっていくかって、エリアの特性によっても変わると思うんですが、そのあたりも各エリアと一緒に話し合って決めるんですか?
石坂さん:そうですね。大体6-7割くらいの戦略は本社が決めます。でもやはり国によって特性があるじゃないですか。例えば、オープンソースの領域で行くとブラジルとか南米って、Moodleっていうのが教育の領域において支配的で、学校とか大学が全部それを使ってシラバスシステムとかをやってるんですよ。なので、そういった場合はMoodleとかと一緒にやっていかないといけないんです。
編集部:どうやってローカルのプレイヤーと組むかが重要なんですね。
石坂さん:なので、大体の戦略はグローバルが決めて、あとはローカルがある程度遊びの幅を持ってオペレーションをしてる感じです。とは言え、「まとこ、そんなこと言ったってお前の言ってることはここでは通用しないんだよ。」みたいなローカルとの戦いは常にありますが(笑)
編集部:ブラジルとかめっちゃ強そうですね(笑) ちなみに、オープンソースだとコミュニティ形成も大事かなと思うんですが、どうやってみんなにMicrosoftのオープンソースのエコシステムに入ってもらうかみたいなところも石坂さんが考えられてるんですか?
石坂さん:まさにそこは今率先してやっているところで、重要な戦略の1つですね。まあオープンソースのコミュニティと言っても色々あって、開発ツールからデータベースから全部あるんですよ。
編集部:たしかに、プログラミング言語もオープンソースみたいなもんですもんね。
石坂さん:そうです。ですから、今GoogleさんがやってるGoっていう開発言語とか、日本初のRubyとか、そういうのも全部入って来るんです。
開発者が命 / 給与は日本の6倍?
編集部:この前シリコンバレーの企業をいくつか訪問されていましたが、シアトルにあるMicrosoftとシリコンバレーにある企業の間で何か違いを感じましたか?
石坂さん:ビッグ5との比較で言うとあまり違いはなかったですが、ただやっぱり会社によって色は違うなと思いましたね。特に印象的だったのがFacebookで、開発者に対してものすごく愛があるなと感じました。
編集部:それはどういったところでですか?
石坂さん:例えば、朝だったら、朝10時までに来れば特別に飲める野菜ジュースがあるみたいな。開発者って朝起きたくないんですよ。だから、そういった開発者の良いところも悪いところも理解した上で、彼らが一番効果的かつ効率的に働ける環境にしてるんだろうなと。
編集部:なるほど、そういうインセンティブ設計がうまいんですね。じゃあ、どちらかというと、環境の違いというよりは会社のカルチャーの違いを感じたと。
石坂さん:そうですね。これはMicrosoftでも同じですが、FacebookやGoogleでも、やはり開発者が命なんだなと感じました。彼らが次に売れるものとかマーケターがメッセージを出せるようなものを作ってくれるわけじゃないですか。なので、彼らに対する尊敬というのはすごいですね。
編集部:ちなみに、給与等の待遇についても気になるんですが、その辺りって実際どうなんですか?
石坂さん:ボーナスなどを含めると、学部の新卒でも日本企業の4倍から6倍は給料がもらえます。あとは、学生が行うサマーインターンですら、多いところで月に100万円ほど報酬がもらえたりしますよ。しかも、居住費や渡航費は含めないで!
編集部:え、そんなにもらえるんですか?日本のIT企業でそんなにお金出してるところ聞いたことないですよ(笑)
マーケターの日米での違い/バリューの出し方
編集部:日本と本社両方でマーケターをやってみて、何か違いってありましたか?
石坂さん:違いはそんなに無いかもしれないけど、やはり本社にいた方が視野は広くなりますね。日本にいると日本しか見ないけど、本社にいると全世界を見るので、入って来る情報量も半端なく多いですし、他の国で何が起きてるのかっていうのも全部見るので。なので、「この国ではこれをやってるのに、この国ではやってない。なんでだろう。やれば良いのに。」みたいなのは見えてきますね。
編集部:より大局的な視点が求められると。
石坂さん:はい、日本と本社では地理的に見た俯瞰力と時間軸で見た俯瞰力が違いますね。日本だと、どうしても3ヶ月、6ヶ月、1年で成績を測られるので、ショートタームで物事を考えなきゃいけないんですが、本社だと何年も先を見てるので。ただ、日本のマーケターの方がよりお客様に近いし、それは彼らにとっての価値なんです。だから、これはどちらが良い悪いではなくて、それが日本と本社の違いなんです。
編集部:ちなみに、各エリアごとにどういうキャンペーンをやっていくかって、エリアの特性によっても変わると思うんですが、そのグローバルとローカルでのバランスの取り方において何か意識されてることってあるんですか?
石坂さん:そこは常に意識してますね。それがエンジニアチームに対する私のバリューの出し方でもあるんです。だって、私はエリア別の違いとか特性とかのナレッジを持っていて、エンジニアの人は持ってないじゃないですか。
編集部:そこの橋渡しというか、どういう風にプロダクトを作るともっと世の中の人にメッセージが届きやすくなるかとか、価値を感じてもらえるかっていうところを伝えるわけですね。
石坂さん:そうですね。もちろんエンジニアのチームも直接お客様と関わることって多いんですよ。でも鳥瞰的に物事を見るのは難しいですよね。だってカスタマーやマーケット、あとは競合の情報って私のところに来るので。だから、そこが私のマーケターとしてのバリューの出しどころだと思うし、私はそれがすごく楽しいんです。
編集部:どうしても日本のマーケットだけ見てると、グローバルに見るのが難しいのかなと思うんですが、そのあたりはどうやってやれるようになったんですか?
石坂さん:私の場合、日本のマーケットしか見てなくて、そのあたりの知見がなかったので、こっちに来てひたすら学んでますね。近くにAzureの人とか、IoTの人とか、Windowsサーバーを見てる人がいて、中には年配というか経験者の方もいるので、そういった人たちにメンタリングしてもらったり、あとはそういった人たちと一緒にランチして情報交換したりとか、そうやって日々ダイナミックに学んでます。
編集部:では、そうやって日々視野を広げていると。
石坂さん:あとは、「インドどうなってんねん」とか「イスラエルどうなってんねん」みたいなことを各国のブランドマネージャーとSkype for Businessとかでひたすら話してます。私は幸せだと思うんですよ。だって、教えてもらえるじゃないですか。しかも、彼らめっちゃ頭良いし(笑)
編集部:たしかにマーケティングするとなると、結局プロダクトだけじゃなくて、カルチャーも理解しないといけないので、そうすると色々と学びは多そうですね。
石坂さん:そうですね。それが面白くて、まだまだタケノコ成長中です。