シリコンバレー村社会。
それは、イノベーションの聖地とも言われ、多様性を広く受け入れているシリコンバレーの裏の顔でもある。来る者を拒まない一方、外から来た者を村の中までは入れない、そんな文化である。
世界を牽引するイノベーティブな企業が日本からなかなか出てこないのも、このシリコンバレー村社会が原因なのかもしれない。
今日は、どうすればそんなシリコンバレー村社会に入り込んでプレゼンスを発揮していけるのかについて、シリコンバレーのベンチャーキャピタル 『GFR Fund』でVR/AR関連のスタートアップを中心に投資活動をしている古森泰さんにお伺いした。
▼本記事の内容 [全7ページ]
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[#1] どうやって良い案件を持ってくるかが大事
[#2] アクションを起こして認知を広める
[#3] VRへの投資は冷え込んでる?
[#4] 次来るARアプリはディスカバリー
[#5] 技術力よりも大事なPMF?
[#6] 過去の経緯、エンジニアを選んだ理由
[#7] 英語力を鍛えるビール2杯チャレンジ
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古森 泰 (Yasushi Komori):
2007年、早稲田大学政治経済学部卒業。新卒で日系大手のソーシャルモバイル会社にエンジニアとして就職。2014年、サンフランシスコに移動。現在は、シリコンバレーを拠点とするVC、GFR FundでVR/AR関連のスタートアップを中心に投資活動をしている。Twitter: @Yasushi_1985
どうやって良い案件を持ってくるかが大事
編集部:今はどういったことをされてるんですか?
古森さん:基本的には「できるだけ多くのスタートアップに会って、そのスタートアップに投資するかどうかを決める」というすごくシンプルなことをしてますね。
みなさん、「ベンチャーキャピタリストは目利きがうまい人」と思っているかもしれないんですが、実は目利き以上に重要なのが「どうやって良い案件を持ってくるか」で、それがベンチャーキャピタリストとして一番工夫が必要なところなんです。
編集部:持ってくる方法が大事だということですね。ちなみに、どうすれば良い案件を持ってこれるんですか?
古森さん:やはり人からの紹介ですかね。
僕らの指標として、だいたい100社くらいあったら、80社くらいが1回のミーティングで「すみません」となることが多くて、残りの20社くらいが「2回目以降もミーティングを続けていきましょう」という感じになるんですよ。
それで、その残った20社のうち5社くらいを実際に投資するかどうかまで検討して、実際に投資するのは1-2社という感じなんです。
そして、この100社の中から1社に投資するときの割合とは別に、最終的に投資する案件のだいたい50%くらいが人からの紹介で、残りの50%がいわゆる僕らが自ら拾いに行ったというか、紹介ではなく見つけた案件ですね。
編集部:それこそイベントやウェブサイトを通して見つけたりということですね。
古森さん:そうです。そっちは割と地味で、それこそ『VRDC』や『VRLA』といったVR/ARのイベントに行って、ブースを1つずつ見て回って、名刺交換してという感じです。
もう1つパブリックにできるところで言うと、有名ですけど『Angel List』みたいなものでデータを集めて、そこから昔の電話営業じゃないですけど、1社ずつあたるみたいなこともしますね。イベントを回るよりかは1つ1つ電話で突撃していく方が良い案件に出会える確率は高いと思います。
編集部:結構地道なんですね。ちなみに、人からの紹介というのは誰からの紹介なんですか?
めちゃくちゃ大事な投資家同士の繋がり
古森さん:これはまさにシリコンバレー村問題に行き着くのですが、原則は投資家同士のネットワークですね。
なので、さっき普段の仕事はスタートアップと会うことだと言ったんですが、その一方でどれだけ投資家とコネクションを持てるかというのも非常に重要なんです。そこで出会った投資家から違う投資家を紹介してもらえたりするので。
だから、各投資家がどういうところに興味を持っているかというプロフィールは常に頭に入れてますね。そうすることで、何か案件があった時に、僕らが投資するかどうかはさて置き、「あ、この案件ならあの投資家がすごく好きそうだな」と繋げられるので。
編集部:まさにギブアンドテイクですね!
古森さん:そういう情報のギブアンドテイクみたいなことを通して、投資家たちとの間に信頼関係を築いていくんです。そうすることで、向こうも何か僕らに合いそうな案件があれば紹介してくれるというわけです。
だから、僕としては、ギブ、ギブ、ギブ、ギブ、ギブ…そしてテイクくらいだと思っていて、そのためにも常に頭の中に色んなVR/AR関係の投資家の情報を入れてあるんです。あと、たまにスタートアップの方から「この投資家を紹介してくれ」と言われることもあるんですが…
編集部:逆にですか?そこも繋ぐんですか?
古森さん:もちろん「オフコース」って感じで繋ぎますね。僕らにはメリットしかないので。だから、感覚的には10件紹介すると、1件くらい紹介が返ってくるという感じですかね。
そして、この返ってくるというのがすごく重要で、投資家からの紹介ということは最低限「あ、この会社は可能性があるかもしれない」というフィルターはクリアしてるわけですよ。
なので、投資家経由のインバウンドはどの会社であっても、大抵失敗しないというか、少なくともさっきの100社のうちの20社に入るケースは多いですね。
編集部:ただ、VR/AR関係の投資家ってたくさんいるわけじゃないですか。例えば、良さげなスタートアップがいたとして、投資家Aさんが「古森さんかBさん、どちらに紹介しよう…」ということも起こり得ますよね?
古森さん:そう!そこがすごく重要なんです。そこがいわゆるシリコンバレー村問題の一番難しいところで、VCのヒエラルキーみたいなのがあるんですが…
編集部:Tier (ティア) でしたっけ?
古森さん:そうです。だいたいVCってティア1からティア5くらいに分類されてるんですが、ティア1というと、いわゆる『Andreessen Horowitz』『Accel』『Sequoia』といったすごいところになります。
編集部:錚々たるVCですね。
古森さん:まぁ、どれがティア2でどれがティア3かっていうのは伏せておきますけど、日本を含むアメリカ国外から来たVCというのは、ティア4とかティア5といった割とネットワークの弱いところにいて、なかなか紹介しようというところには入ってこないんですよね。
編集部:繋がりがないと厳しいですよね。
古森さん:だから、一番重要なのは、他の投資家たちに「あのVCは面倒見が良いから、繋いであげたらスタートアップ側にもメリットがあるだろう」と思ってもらうことなんです。そうすると、誰に紹介しようかと迷った時に選んでもらえる確率も上がると思うので。
そのためにも、投資家たちとフランクに情報交換しあえる関係になっているか、そして、投資した会社をちゃんとサポートできているかというファンダメンタルな活動が重要で、僕たちもそこを意識して活動してますね。