物理的な距離の重要性
編集部:例えば、IoTの領域だとAmazonなども力を入れていますが、そのあたりは競合にならないんですか?
中村さん:パナソニック全体の意見は言える立場にないので、自分が関わっているビジネスだけに絞っていうと競合にはなりません。
もちろん、彼らがやっているビジネスと全く同じことをやれば競合になりますけど、それはそもそも顧客から求められていないと思うので、やらないですね。
そして、スタンスとしては彼らのプロダクトで解決できてないお客さんの悩みを解決する、もしくは彼らの抱えている課題を一緒に解決するというスタンスなので、彼らとはアプローチが違いますし、実際にそのあたりの会社とは色んな領域で協業していたりします。
編集部:では、競合というよりはパートナーという形で一緒に助け合えるところは助け合っていると。ちなみに、このシリコンバレー拠点ではそういった外部との交流はないんですか?
中村さん:ここのラボだと、別の会社の社員もいたりして交流は活発ですよ。やはりそのくらいの距離感でやらないとスピードも上がらないと思うので。
結局、どれだけ電話やビデオチャットがあって、Slackなどのデジタルコミュニケーションツールが発達したといっても、コミュニケーションの距離は埋まらないと思うんです。
そして、こうやって直接会うのが一次情報とするならば、チャットやメールになった時点で思っていることがテキストになるので二次情報になるじゃないですか。なので、やはり一次情報でコミュニケーションが取れる事がベストだと考えています。
なので、Apple、Google、Facebookがああいう大きなキャンパスを作って、人を集めているのは、僕の解釈ではまさにそういうことなんじゃないかと思うんですよね。
編集部:なんだかんだ言って、みんなが同じ場所に集まってやる方が効率は良いですよね。
中村さん:そうですね。そして、どういうプロダクトを作ればユーザーたちに受け入れられるかが分かりにくい時代になって来ているじゃないですか。
だからこそ、色々とやり方を変えたりテストしたりで、それによってチームのタスクも変わるので、みんなが同じ場所に集まって事業開発するのが理想だと思うし、資本投資が可能な会社はああいう風にするんじゃないですかね。
既存事業と新規事業のバランスが大事
編集部:少し話が変わりますが、巷では「日本の大企業からは新規事業が出にくい、そこに弱みがある」と言われていますが、これに関してはどう思いますか?
中村さん:半分は本当だと思います。これはパナソニックのように既に成功のビジネスモデルが出来上がっている企業の課題だと思いますが、パナソニックって毎年売上が8兆円あるんですよ。
8兆円ですよ?すごくないですか?しかも、従業員26万人みんなが給料をもらえて、それでもまだ利益が出て成長しているんです。
もちろん、その為には既存事業を担当しているメンバーの凄まじい努力があります。私も数年前まではそれをしていました。
編集部:本当にすごいと思います。
中村さん:つまり、そういうシステムがもう出来上がってるということなんです。
逆を言うと、全てのことがこの8兆円のビジネスをやるために最適化されていて、そこから外れたことをやろうとすると、途端に歯車が崩れてしまうんですね。
だから、新規事業を生み出そうとしても、じゃあ今ある8兆円の売上が下がっても良いかという話になって、結局は今のビジネスを維持する方に意思決定や行動の重心が置かれてしまうんです。
編集部:たしかに、現状でそれだけ売上があって、堅実にキャッシュを稼げるのであれば無理にリスクを取る必要はないですよね。
中村さん:なので、本当に今年の売上だけをKPIとして重視するんだったら、僕のチームを解散して、僕をこのシリコンバレーでの新規事業開発から外して、例えば自動車メーカー向けの事業をやってるところで営業や製造の仕事でもさせた方が絶対売り上げに貢献できると思うんです、来年とかの短期的な時間軸では。
でも、それだけをやっていてもダメだというのは自分たちパナソニックの歴史からも分かっているので、短期的な数値も見つつ、ちゃんと長期的なところもやっていきましょうということなんです。なので、私たちの部門がここに拠点を作ったのも長期的なことを見越しての投資なんです。
編集部:そこは既存事業とのバランスも見ながら攻めていこうというわけですね。