イノベーションの聖地とも言われるシリコンバレー。そんなシリコンバレーでイノベーションを起こしているのは、Googleのような現地の大企業やスタートアップだけではない。
創業45年のドイツ企業「SAP」は、「デザイン思考」を企業文化に根付かせることで、古くて変わりにくい企業から、世界で最もイノベーティブな企業の1つへと変わった。
ドイツという日本と似通った文化背景を持つ国の企業が後天的にイノベーティブに変われたのであれば、日本企業も同様に変われるのではないか?
今回は、SAPのシリコンバレー拠点にてPrincipalを務める坪田駆さんに、デザイン思考による「後天的なイノベーションの起こし方」について紐解いてもらう!
▼本記事の内容 [全8ページ]
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[#1] デザイン思考による企業変革の道程
[#2] 5年で売り上げを2倍に
[#3] デジタルエコノミー: 経営課題の不確実性
[#4] SAP変革の鍵: 3つのP
[#5] Innovation = Creativity x Execution
[#6] GE社のデザイン思考の例
[#7] (Q&A) 日本企業がイノベーションを起こすには?
[#8] (Q&A) 日本のスタートアップはどうすれば良いか?
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*今回はテイストを変えてLogmi (ログミー) 風に書き起こしました。かなり文章が長いので、要点だけを掴みたい人は「太字と黄色い下線部分」を中心に読んで下さい。動画もオススメです!
坪田 駆 (Kakeru Tsubota):
当地最大のアウトサイダーであるSAPシリコンバレーにて日本企業との新規事業開発に従事。日本国内のビジネスイノベーションコミュニティ「Business Innovators Network」主宰。コマツとSAPジャパンとの合弁事業「LANDLOG」メンター、経産省のイノベーター養成事業「始動 Next Innovator」メンターなど取り組み多数。
デザイン思考による企業変革の道程
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坪田さん:私がいつもお話ししているのは、無名の「SAP」という古くて重い会社が、どうやって世界で最もイノベーティブな会社の1つに変わったかという話なんです。無名と言ったのは、ここに来る大半のお客さんがSAPのことを知らずに来られてるんですね。「口コミとか人の紹介で面白い話が聞けるって聞いて…」みたいな。
ということは、ここで重要なのは「トラディショナルで重くて古い会社がどうやって仕組みとして後天的に変わってきたか」ということなんです。我々はそれを変化を内製化すると言います。
タイトルに「ドイツ企業が」と書いてある通り、我々は元々シリコンバレーの住人ではないんです。なので、SAPがこれまでにやってきたことを科学していくと、古くて重い日本企業も変われるんじゃないかということです。
そして、最近よくデザイン思考って聞くと思うんですけど、デザイン思考はシリコンバレーではとても一般的なビジネスのフレームワークだと言われていて、デザイン思考がSAPの成長を牽引した最大のファクターだと言っても過言ではないんです。
なので、今回の話をざっくりいうと、「外資系企業でもデザイン思考を身につければ、後天的にイノベーションが起こせるよ」という話です。
SAP Overview
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坪田さん:SAPの話を簡単にしておきます。SAPという会社はERPというシステムを販売していて、Fortune500という世界の大企業の約9割が使ってるんです。ここには書いてないんですけど、世界のGDPを構成する活動の76%がSAPのシステムを通って行われているんです。
ただ大きい会社に使っていただいてるだけではなくて、重要なシステムを使っていただいてるということです。そして、社員が9万人いて、売り上げがざっくり3兆円くらい。でも、14兆円の時価総額なんです。結構レバレッジされてるんです。
時価総額14兆円というとIBMとかGEと同じクラスの会社なんですけど、売り上げ3兆円という比較的コンパクトな会社なのに、それだけ市場から高く評価されているということなんです。
そして45年ビジネスをやってきました。決して自慢したいわけではなくて、古くて重くて変わりにくい会社だったというのをまず初めに覚えていただきたいんです。
シリコンバレー最大の外資系企業
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坪田さん:そんな会社なんですけど、シリコンバレーの中での位置付けは高くて、みなさんご存知のGoogle, Apple, Facebook, Tesla, HPらに次いで、13番目に従業員規模が大きいテクノロジー企業なんです。お気付きの通り、1から12まで全部アメリカの会社で、ほとんどが本社です。
要は僕らはシリコンバレーで一番大きい外資系企業で、従業員4000人を抱えている会社だということなんです。これは結構重要なポイントで、まずシリコンバレーってめちゃくちゃ排他的な土地なんですよね。
シリコンバレーを形成する非常に重要なエコシステムの一つに資金調達を介したお金の流れというのがあって、つまりお金を投資してもらって育った投資家やスタートアップが、しっかり次の世代に還元していく「エンジェル化のサイクル」が世代を超えて成立してるんです。
そして、ここでイノベーションを起こしたいとなると、だいたい3マイルくらい行けばそれに必要な材料が揃ってるんですよね。こうやって全てアメリカ企業に良い便益がいくようエコシステムが設計されています。日本企業のみなさんも苦労されてますけど、やはりその本流のエコシステムに入っていくのはかなり難しいです。SAPもまったく同じでした。
また、パロアルトって世界で一番物価が高い場所の1つで、パロアルトの中心地に住もうと思うと、四人家族が住む普通の2LDKで家賃が60万円なんです。日本の2-3倍しますよね(笑)
以前新聞で言っていたのが、パロアルトの一軒家の価格の中央値。日本だと、5000-6000万円くらいですかね?それが、ここでは3億3000万円なんです。日本の生涯年収くらいですね(笑)
さすがに高いじゃないですか?だから、行政が働きかけて公営の団地を作ろうという話がこの前ありました。でも、全員に部屋を提供するわけにはいかないので、ある程度年収で足切りするんです。その足切りする年収が2500万円。つまり、シリンコバレーでは年収2500万円もらっても低所得者なんです。
そして、SAPは従業員を4000人抱えて、このあたりにビルを9個持ってるんです。それってすごいことじゃないですか?だから、SAPは目的があってここにいるんです。それが次にお話しする新規事業なんです。