ドイツ企業SAPに学ぶ #後天的なイノベーションの起こし方

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日本企業がイノベーションを起こすには?

編集部:例えば、シリコンバレーは村社会だと言われていて、少し閉ざされたエコシステムを持っていますが、そこに日本企業単体で来て、新規事業の出島みたいなものを作ってやれるかというと結構難しいと思うんですがどうなんですかね?

坪田さん:日本企業は今、過去一番シリコンバレーに来ていて、おそらく900社くらい来てます。なので、シリコンバレーの中でも日本企業向けのエコシステムが結構発達していて、その枠内である程度の成功を持って帰ることは可能なんです。

ただ問題としては、よくピッチャーキャッチャー問題と言われていますけど、シリコンバレーでやったことがちゃんと本社で評価されないということと、その会社を変えるくらいのイノベーションはやはり本社が動かないとできないということなんです。

そして、日本企業のみなさんが苦労されるのが、日本ではすごく有名な企業だと思ってこっちに来ても、こっちのスタートアップにはあまり受けないということですね。

そういうジレンマがあるので、日本企業のコミュニティ内ではある程度成功できるかもしれませんが、会社を変えるぐらい大きなイノベーションというのは、本社も分かってくれないし、シリコンバレーの中でもなかなか認められないということです。

編集部:難しい部分ですね。

坪田さん:これをSAPが日本で本丸に寄り添って助けられることはないかと今考えていて、今度「Business Innovators Network」というコンソーシアムを作ります。

これはデザイン思考を中心に本気でイノベーションを起こしていくコミュニティで、そこにスタートアップ、デザイン会社、投資家、そしてアカデミックの人たちを集めます。それが今の僕の大きな活動の1つですね。

このあと実際に東京の中心地にコワーキングスペースみたいな場所を作って、そこで出たアイデアに対して投資家が「それだったらうちは数億円投資しますよ」とか、スタートアップが「うちの技術使えますよ」みたいに、みんなが助け合える環境・仕組みを再現的かつ継続的に日本で仕掛けていきます。これはまさにシリコンバレーで起きてることですね。

編集部:色んな人たちが関われる場所を作って、そこで出てきたプロジェクトをSAPが助けてグローバルにも持っていくわけですね。

坪田さん:それはありますね!やはりSAPの持つ40万社の顧客ネットワークは強いので。なので、僕らは解くべき問題をデザイン思考で正しく見定めて、本気で頑張っていこうとする日本企業を応援していきたいわけです。

オフィスの壁に描かれた次の産業を生み出す技術

SAPが変われた理由

編集部:例えば、こういう取り組みをやろうとすると、その企業のトップや経営陣の考え方と行動が変わらないと難しいんじゃないかと思うんです。特に、役員の任期が4年間だとすると、いかにその4年間をミスなく過ごせるかが個人として大事になるので、リスクを取るメリットがないのかなと。

そんな中でSAPが変われたというのは、役員や会長たちがすごくビジョナリーな意識を持っていたからなのか、それともさっき仰られた内部の仕組みが5年、10年経ってワークしてきたから変われたのか、どの要因が多いんですか?

坪田さん:すごく良いポイントですね。というのも、それはすごく答えにくい質問なんです。なんでかと言うと、やはり会長の影響が大きいんですね。

編集部:オーナー社長だから変われたと。

坪田さん:変わりやすかったのは間違いないです。ただ、2つ重要なポイントがあって、1つが、先ほど青い丸と黄色い丸を映しましたけど、創業者でも重くて古い凝り固まった企業の中でイノベーションを起こせなかったんです。だから、トップダウンが全てではなく、トップダウンはあくまで必要条件だということです。

もう1つ。例えばコマツさんはオーナー企業じゃないわけです。でも彼らは、トップにコミットメントを取らせることに素晴らしく長けた企業で、トップを突き動かす下のリーダー層、実際の実務リーダー層がすごく発達してるんです。

要は、どうやってトップにコミットさせるかも重要で、ここに来たトップがSAPの話を聞いてコミットする気になって、結果として企業が変わっていければ最高じゃないですか。そこに再現性をもたらせないかというのが僕らのチャレンジでもあるわけです。

だから、今の時点ではオーナー企業だっていうのがSAP的な回答なんですけど、それをなんとか打破して、そうじゃない企業が変われるストーリーというのが非常に重要だと思うので、そこはコマツである程度証明できたのかなと思っています。

編集部:その再現性を担保するために、今日お話されたフレームワークなどを使って確率を少しでも上げていこうというわけですね。

坪田さん:そうですね。底上げするという感じです。

トップは危機感を持っている

編集部:アメリカの場合、GoogleやAmazonが近くにいるから、古い会社も「変わっていかないとやられる」という危機感があってオープンイノベーションにも積極的な印象があるんですが、日本企業も危機感は感じているんですかね?

坪田さん:トップはすごく危機感を持ってますよ。少なからず、僕らがお会いする大企業の方々はグローバルにビジネスを展開されていてダメージを受けているので。

そして、組織にアクセルをかけるためには真ん中の人、いわゆる中間層の人たちが重要で、トップの危機感には、そういった彼らを動かす仕組み作りなども含まれているんですね。そして、そこはSAPも同じなんです。

編集部:同じなんですか?

坪田さん:今、僕らは全員デザイン思考が必修なんです。例えば、SAPアカデミーという企業名大学がSan Ramonにあって、そこで年間300人のグローバルに選ばれた新人が研修をするんです。そして、その1ヶ月半の研修の間は、他の国の社員とルームメイトになって、寝食を共にしながら勉強すると。

要は、ビジネススクールみたいなもので、ビジネス講習、ロジカルシンキング、デザイン思考などを学ぶわけです。あと、いかにプレゼンテーションで相手の心を掴むかといった実践的な研修もやります。講師も厳選されていて、例えば、営業職なら前の年のスーパー営業マンがその1ヶ月半先生として選ばれます。

それって要は、最終的に「あなたにイノベーションの素養ありますか?デザイン思考できるリテラシーありますか?」って聞いてるわけですよ。そして、最後にPassかFailがあって、パスだったら次に行けるけど、ダメだったらさようならになっちゃうんです。

編集部:え、切っちゃうんですか!?

坪田さん:だから、本気でこの人が素養があるかっていうのを見極めてるんです。そして、新しく入ってくる人は優秀なんです。問題は真ん中のおじさん層なんです。そこに対しても、僕らは全員がデザイン思考をできるようにするための仕組みを持っていて、それがSAP独自の人事評価制度なんですね。

SAPって、基本的には年俸なんですよ。要は、基本給とボーナス給があって、ボーナスは単純にどれくらい活躍したか、成果を残したかという定量評価で決まると。でも、基本給に関しては、その定量評価とは切り離されてるんです。

編集部:どういうことですか?

坪田さん:それは一言「あなたはイノベーターですか?」って聞いてるんです。そして、「イノベーターじゃないと、どれだけ活躍しても基本給は上がっていきませんよ」となるわけです。

そうすると、自然淘汰されるじゃないですか。だから、おじさんたちもずっと「あなたはイノベーターですか?」って聞かれるわけです。SAPも5年で2倍の成長で満足ではなくて、次の5年でもう2倍に成長するために「まだあなたたちは変わり続ける期間ですよ」と社員に言い続けているわけです。

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